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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)1736号 判決 1988年12月21日

控訴人

甲 野 春 子

右訴訟代理人弁護士

近 藤 繁 雄

被控訴人

甲 野 夏 子

被控訴人

乙 山 秋 子

被控訴人

丙 川 一 夫

被控訴人

丙 川 冬 子

右法定代理人後見人

乙 山 二 夫

右被控訴人四名訴訟代理人弁護士

松 本 治 雄

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、被控訴人ら代理人において、「被控訴人らが本訴において請求する金員は、被相続人甲野太郎が死亡した昭和五七年五月二一日の時点で同人が所有していた現金七五三三万七八三八円のうち六一九一万九一五五円であって、現金も金銭債権と同様相続分に応じて分割された額を当然承継されるものである(本件は、この点の判断を求めるものである。)から、被控訴人らに対し、右金員につきそれぞれの法定相続分に応じて支払を求める。なお、亡太郎の相続人らの間においては、遺産分割の協議はいまだされていない。」と述べ、控訴代理人において、「被相続人太郎が、その死亡時において六〇〇〇万円を超える現金を銀行のセフティバッグ等に保管していたことは認める。太郎は、死期が近付いたのを知り、現金による相続を考え、銀行預金等を現金化したのであるが、分割方法等につき遺言する前に死亡した。」と述べたほか、原判決事実摘示(判決書中二丁裏六行目「現金及び預金」を「現金七五三三万七八三七円」に改め、三丁表八行目から同丁裏五行目までを削る。)のとおりであり、証拠の関係は、当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

被控訴人らの主張によれば、同人らが本訴において返還を求める保管金なるものは、被相続人甲野太郎がその死亡時に所有していた現金である(控訴人も、被相続人太郎が六〇〇〇万円以上の現金を残して死亡したことは認めている。)ところ、現金は、被相続人の死亡により他の動産、不動産とともに相続人らの共有財産となり、相続人らは、被相続人の総財産(遺産)の上に法定相続分に応じた持分権を取得するだけであって、債権のように相続人らにおいて相続分に応じて分割された額を当然に承継するものではないから、被控訴人らの自ら認めるとおり相続人らの間でいまだ遺産分割が成立していない以上、被控訴人らは、本件現金(たとえ、相続開始後現金が金融機関に預けられ債権化されても、相続開始時にさかのぼって金銭債権となるものではない。)に関し、法定相続分に応じた金員の引渡しを求めることはできない。

よって、被控訴人らの請求は、主張自体において既に失当として棄却を免れないから、これと結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人らの請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条及び第九三条第一項本文を適用して、主文のように判決する。

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